決して踏んではならない石段

どうも、死にぞこないです。
今回お話しするのは、当時中学生だったEさんという女性から提供された、2000年代前半の体験談だ。
2000年代前半といえば、中高生の間でMDウォークマンが普及し、重いエナメルバッグを肩にかけて通学するスタイルが一般的だった。
Eさんもそのひとり。
学校の厳しい部活動を終えた後、そのまま夜遅くまで学習塾に通うという多忙な日常。
その日常の救いになっていたのが、MDウォークマンから流れる楽曲だったという。
学習塾が終わると、ようやく自宅へ戻る。
その途中には、薄暗い神社の裏山へ続く、苔むした古い石段があった。
ただこの石段には、町の自治会には昔から言い伝えられている奇妙なルールがあった。
「石段の『十三』段目は、決して踏んではならない」
ジンクスや、学校の怪談、都市伝説といった類のオカルトじみたルールだ。
しかも、日本の神社なのにも関わらず、西洋で不吉の象徴とされている数が使われている。
だが、自治会のルールとして明記されているのが不気味だった。
年配の住人たちは子供たちに、「とにかく踏んではいけない」と繰り返し繰り返し伝えていたという。
といっても、平成の世を生きる中学生のEさんにとっては、時代遅れの迷信もいいところ。
念のため、周りの目がある時にはルールを守っていたが、「絶対に守らなければならないルール」として、心から信じているわけではなかった。
そんな中……秋も深まり、吐く息が白くなり始めた夜のことだ。
部活動のハードな練習と塾の模試が重なり、Eさんの体は鉛のように重かった。
Eさんはイヤホンから流れる音楽だけが支え。
「早くベッドに倒れ込みたい……」
Eさんの心の中はそのことでいっぱい。
だから、Eさんは忘れていた。
石段の数を数えることを。
「あっ」と思った時は遅かった。
Eさんの足の裏に、硬いはずの石の感触がなかった。
そもそも感覚がまったくない。
落とし穴にはまってしまったかのように、Eさんの身体は落下していた。
そこは、石段右脇、崖のようになっている場所だった。
Eさんは、石段から右方向に大きく踏み出し、崖から落ちてしまったのだ。
しばらく落下したEさんの身体は、地面に強く打ち付けられた。
Eさんはその時の衝撃のことを、まったく覚えていないという。
ただ、撃ち付けられた後、イヤフォンから聞こえた声のことは、しっかり覚えているそうだ。
その声は、こう言っていた。
「……ようこそ、いらっしゃい……」と。
次にEさんが覚えているのは、真っ白な病室だという。
Eさんは、深夜、就寝前の見回りを行っていた神社の宮司に発見され、そのまま救急病院に担ぎ込まれた。
高所から落下しただけあってけがはひどかったそうだが、不幸中の幸いか、後遺症が残るほどのけがはなかったという。
死にぞこないメモ
13が不吉な数字とされるのは、イエス・キリストが処刑されたのが金曜日とされているからだ。
あるいは、12人の神が集まる宴に、招かれざる13人目の客として邪神ロキが乱入したという話も根拠といえる。
だから、本来日本の伝承や風習とは切り離されている。
とはいえ、現代の日本では海外以上にこの数字を忌避する傾向が強い。
学校の怪談などに出てくるエピソードや、死刑台に向かう階段の段数であるというエピソードなどといったかたちでも語られている。
このため、この数を不吉とする概念が、歴史のどこかのタイミングで日本に輸入され、土着信仰と結びついている可能性もゼロじゃない。
実際のところ、石段のあった神社は、もともと「口減らし」のために殺された子どもの霊を供養するためのものだったという。
「口減らし」とは、飢饉などで食糧が減った際、生存できる人間の数を増やすため、あえて子どもを殺してしまうという行為だ。
なんでも江戸時代には、あの神社のあった場所こそが「口減らし」のための処刑場として使われていたらしい。
だからこそその後、供養のために神社が建てられた。
つまり「……ようこそ、いらっしゃい……」とは、そういうことなのだろう。

死にぞこない
[ Contact / X ]洒落怖系怪談を投稿していた怪談師。 怪談を負い過ぎてるから、多分、そのうち祟りで死ぬ。 でも生きてるから、死にぞこない。 ごめん、かっこつけた。 …本当は、ユーザー名を 42って取得しようとしたのに、 ミスって41って入力したから。 42になりそこねた42ぞこない。