カギを持ち出さないでください

どうも、死にぞこないです。
今回お話しするのは、当時オカルト掲示板の常連だったDさんというニートの男性から提供された、2000年代前半の体験談だ。
フラッシュ動画や掲示板の実況スレッドが全盛期だった当時、Dさんはスレッドの住人たちを煽り、自分に注目を集めるための「ネタ」を探していたという。
そこで目をつけたのが、県境の山奥にある有名な廃病院。
深夜、ガラケーのカメラと懐中電灯だけを持ち、Dさんは単身その廃病院へ潜入した。
荒らされた受付を抜け、埃っぽい宿直室に足を踏み入れる。
そこには、壁に掛けられた古びた神棚と、なぜかカギ、そして古い宿直日誌があったという。
Dさんは迷わず宿直日誌を手に取って開いた。
すると日誌の最後のページには、乱れた字でこう書かれていたという。
「この『九』号室のカギは、絶対に持ち出さないでください」
キターーー!
Dさんはそう思ったそうだ。
そもそもこの廃病院の病室は、3号室の次が5号室、8号室の次が10号室となっていた。
死や苦しみに繋がる数を避けるためだ。
ここでDさんはこう推測した。
恐らく宿直日誌に書かれたカギは、神棚に置かれたカギのことを言っているのだろう、と。
「苦」を象徴する、存在しない部屋のカギを神棚にまつる……ある種のゲン担ぎに違いない。
だとしたら、これはネタになる。
間違いなく、スレッドに住人たちをフィーバーさせられるハズだ。
……そう考えたDさんは、当然のようにカギを持ち出した。
赤錆だらけのカギを胸のポケットに突っ込み、深夜の病棟探索を始める。
異変が起きたのは、2階の病室に入った時のことだ。
ポケットの中のカギが、まるで体温を持っているかのように生暖かくなってきた。
……いや、それどころではなく、熱い。
こころなしか、ドクン……ドクン……と脈打っているような気さえする。
いや、そうではない。
熱いのはカギではなく、Dさんの胸だ。
Dさんの胸がドクン、ドクンと激しく脈打ち、熱を持っている。
息苦しい。
Dさんはカギごと胸を押さえ込んだ。
しかし、熱くてそれどころではない。
身体だけじゃない。
息も焼け付くように熱く、呼吸するだけで痛みを感じるようになってきた。
もはや、体中が熱と痛みをもっているように感じられる。
思わずDさんはその場に倒れ込んだ。
床は埃と砂とで汚れていたが、気にしている場合じゃない。
「くるしい……」
その言葉に続けてDさんは、「たすけて」と言おうとした。
しかしその言葉が声になることはなく、Dさんは熱と痛みから気絶してしまったという。
Dさんが発見されたのは、それから24時間後のこと。
オカルト掲示板に「廃病院に向かう」と残していたため、何かあったのではないかと心配半分、ネタ半分で捜索しにきたスレの住人によって発見された。
Dさんは衰弱していたようだが、病院で診てもらって無事回復できたという。
もちろん、見てもらった病院というのは廃病院とは別の病院だ。
後日、オカルト板の有志がその廃病院の歴史を調べたところ、そこはかつて、有効な治療法のない重症患者や伝染病患者を隔離し、ただ死を待たせるだけの「姥捨て山」のような場所だったという。
死にぞこないメモ
親知らずを抜歯したことはあるだろうか?
オレは親知らずの生え方が歪だったせいで、歯茎を切開し、親知らずをカットして取り出すという難手術を味わった。
手術も苦痛だったが、手術後の腫れが酷く、鎮痛剤なしでは耐えられないレベルだった。
ただ鎮痛剤はある程度時間が経つと効き目が切れてしまう上、半日置かなければ連続で飲むことができない。
ただただ痛みに耐えなければならないという時間が、ひたすら苦痛だった。
親知らずですらあれだけ苦痛だったのに、重病や伝染病といった症状は、どれほど苦痛なのだろう。
有効な治療法もなく、痛みや苦しみにただ耐えることしかできない。
おそらく、神棚に祀られていたカギは、そんな患者たちの痛みや苦しみを引き受け、供養するためのものだったのだろう。
そういう意味ではDさんの自業自得といえる。
Dさんは今でもネット怪談が好きとのことだが、さすがに心霊スポットに足を運ぶことはなくなったという。

死にぞこない
[ Contact / X ]洒落怖系怪談を投稿していた怪談師。 怪談を負い過ぎてるから、多分、そのうち祟りで死ぬ。 でも生きてるから、死にぞこない。 ごめん、かっこつけた。 …本当は、ユーザー名を 42って取得しようとしたのに、 ミスって41って入力したから。 42になりそこねた42ぞこない。